「
マルセル・デュシャン賞」の受賞作品と
マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)本人の作品を一同に展示する展覧会ということで、若干の期待を持ちつつ行った森美術館の「
フレンチ・ウィンドウ展」。(〜8/28まで)
このタイトルからしてデュシャンの作品「
フレッシュ・ウィドウ(fresh widow)」をもじっているので、もう少しデュシャン色が見えて来るかと思いましたが、その辺りはあまり感じられませんでした。
マルセル・デュシャンは
ニューヨーク・ダダの中心的作家としてデザイン学校の近代デザイン史でも若干触れましたが、その作品のコンセプトだけでなく、今回展示されていた代表作である「泉」の最初のオリジナル(変な言い方ですが)が現存しない中、数百個ほどの「泉」のオリジナルが存在するなど、現代美術における
オリジナルと
レプリカについても多くの議論を生んでいる影響力の大きい作家です。
さて、デュシャン賞受賞作品にはかなりバリエーションがあるので、好きな作品、嫌いな作品があるのは当然でしょうが、個人的には全体的な見応え感がなかった印象を受けました。
あとで公式サイトを見直しながら思い返してみたところ、展示作品が「部分」であったり、平面作品であるのに正面から見られない展示の仕方だったり…と展覧会の主催者側からの「こう見て、こう感じて」というコンセプトが個人的な感覚に合わなかったのではと思っています。
ところでデュシャンが1923年に制作を中断した未完の代表作「
彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも(The Bride Stripped Bare By Her Bachelors, Even)」(通称「
大ガラス」)。
このオリジナルは
フィラデルフィア美術館に現存するのですが、ひび割れがあるガラスを黄色みがかったガラスでサンドした状態の作品。
大ガラスはひび割れや黄色みがかった色もデュシャンの意図した作品表現と思っている人が多いのですが、このひび割れやサンドしたガラスは、運搬中に誤って割れた未完成作品を修復したもの。
修復はデュシャン本人が行ったものの、本当の意味でのオリジナルは割れる前の未完成作品なのか、修復して完成したのかという議論が多くあります。
一方でこのひび割れの入る前の状態のものを生前のデュシャン本人の許可を得て、設計図やフィラデルフィア版、その他資料等の調査を経て没後制作されたオリジナルに限りなく近い「レプリカ」が1980年に日本で制作されたというのは意外と知られていません。
図版でしか見た事がありませんが、透明で割れの一切ない大ガラスは、不思議な強さがあります。
東京大学教養学部美術博物館が所蔵し、数年前に特別公開がありましたが、身損ねて悔しい思いをしていたのですが、最近になって同
駒場博物館で基本的に常設展示しているそうです。
これは見に行かなければ。